アプリケーションに戻る SWAY の使い方
目次
はじめに 1. データの読込 2. 振動系 3. 復元力特性 4. 計算 5. 応答スペクトル 6. 例題 7. 結果の表示と出力 8. 前提条件と適用範囲 用語索引
はじめに SWAY は,加速度波形を入力とし,1自由度系の弾塑性応答を時刻歴で求めるアプリケーションである。骨格曲線と履歴則を選び,最大応答,履歴ループおよびエネルギーを確認できる。剛性を変えて周期を振ることで,一定強度型の弾塑性応答スペクトルも作成する。計算はすべてブラウザ内で行い,データは送信しない。
1. データの読込 K-NET・KiK-net の強震記録(.NS,.EW,.UD など)と気象庁の強震波形(.csv)は,そのまま読み込める。ZIP などの圧縮ファイルやフォルダのままでもよい。強震記録は Scale Factor を乗じて cm/s2 とし,NS・EW・UD を別々の波として一覧に加え,周波数はヘッダの値とする(KiK-net の地中記録は除く)。これ以外は,加速度の数値だけを並べた CSV またはテキストを読み込む。ヘッダ行は入れない。複数列は別々の波として扱う。読み込んだ波は画面上部の波の一覧に並び,左端の丸で計算する波を選択する。一覧には,点数,長さ,最大加速度 PGA および最大速度 PGV を示す。PGV は,平均を除いた加速度を台形則で積分した速度の最大絶対値である(基線補正はしない)。名前,周波数(サンプリング周波数),倍率および単位(cm/s2 ,m/s2 ,g )は,一覧で波ごとに与える。計算は cm/s2 にそろえて行い,倍率は単位とは別の補正に使用する。数値CSVを読み込んだときの周波数は「数値CSVの既定の周波数」の値とする。読み込んだ波と一覧の値はブラウザ内に保存され,次に開いたときに復元される(設定ファイルには含まれない)。
計算に用いる単位系は,変位が cm,力が kN,質量が kN·s2 /cm,エネルギーが kN·cm である。
表1.1 読み込めないときのメッセージと対処
メッセージ 原因と対処
ヘッダを読み取れません K-NET・KiK-net の記録として読もうとしたが,ヘッダの Station Code,Scale Factor または Sampling Freq(Hz) が見つからない。ヘッダを削除した記録や,表計算ソフトで編集した記録では起こる。取得した元のファイルを用いる。
成分(Dir.)を判別できません K-NET・KiK-net のヘッダの Dir. が NS・EW・UD(KiK-net の地中記録では 1〜6)のいずれでもない。拡張子だけを変えたファイルでは起こる。
サンプリング周波数を読み取れません 気象庁 CSV として読もうとしたが,SAMPLING RATE の行が見つからない。
NS・EW・UDの見出し行が見つかりません 気象庁 CSV の列見出しの行が見つからない。見出しを削除したファイルでは起こる。
ZIPの形式を読み取れません ZIP として読み取れない。ファイルが壊れているか,分割された ZIP である。展開してから読み込む。
数値の行が足りません 数値だけの CSV として読もうとしたが,数値として読める行が 32 行に満たない。ヘッダ行や時刻の列が含まれていないか確認する。
2. 振動系 1自由度系の運動方程式を式(2.1)に示す。ここで,m は質量,c は減衰係数,Q は復元力, は地動加速度である。
(2.1)
ここで,
m :質量(kN·s²/cm)c :減衰係数(kN·s/cm)Q :復元力。変形に抵抗して系が返す力(kN)x :地面に対する相対変位(cm)。上の点は時間微分を表し,1つで速度,2つで加速度である :地動加速度。入力波形の値(cm/s²)
質量 m と初期剛性 K を与えると,弾性周期 T = 2π √(m /K ) を表示する。減衰定数 h は粘性減衰の比であり,減衰係数は式(2.2)または式(2.3)による。減衰の型は次の2つから選択する。
(2.2)
(初期剛性比例) (2.3)
(瞬間剛性比例) ここで,
h :減衰定数。臨界減衰に対する比。設計では鋼構造で 0.02,鉄筋コンクリート造で 0.03 を用いることが多い。応答スペクトルの標準値として使われる 0.05 は,建物の減衰そのものではなく,スペクトルを描画するときの約束ごとであることに注意するK :初期剛性(kN/cm)kt :その時刻の接線剛性。降伏すると小さくなる(kN/cm)t :時刻(s)
初期剛性比例 :減衰係数を初期剛性に比例させる。降伏後も減衰係数は変わらない。
瞬間剛性比例 :減衰係数を各時刻の接線剛性 k t に比例させる。降伏して剛性が下がると減衰力も小さくなる。
同じ地動に対する両者の違いを表2.1に示す。瞬間剛性比例では減衰力が小さくなるため,減衰の吸収が減り,そのぶん履歴の吸収と変形が増える。
表2.1 減衰の型による違い(6. の例題の条件,移動硬化)
減衰の型 最大変位 (cm) 最大加速度 (cm/s2 ) 減衰 (kN·cm) 履歴 (kN·cm) 初期剛性比例 5.35 323 3138 5512 瞬間剛性比例 5.93 303 2007 7197
3. 復元力特性 3.1 骨格曲線 骨格曲線は,リニア,バイリニア,トリリニアまたは Ramberg–Osgood 型から選択する(Ramberg–Osgood 型は本節の最後に述べる)。耐力は震度(質量に乗じた重力加速度に対する比)で与えるため,折点の荷重と変位は,バイリニアでは式(3.1),式(3.2),トリリニアでは式(3.3)〜式(3.5)となる。ここで g = 980.665 cm/s2 である。
(3.1)
(3.2)
ここで,
Qy :降伏耐力(kN)C2 :第2折点震度。重力加速度に対する比で耐力を与えるm :質量(kN·s²/cm)g :重力加速度 980.665 cm/s²K :初期剛性(kN/cm)δy :降伏変位(cm)
(3.3)
(3.4)
(3.5)
ここで,
Q1 :第1折点の荷重。ひび割れ点に相当する(kN)Q2 :第2折点の荷重。降伏点に相当する(kN)δ1 :第1折点の変位(cm)δ2 :第2折点の変位(cm)α :第1折点後の剛性低減率。初期剛性に対する比
C1 mg C2 mg δ1 δy δ2 リニア バイリニア トリリニア δ Q K αK βK 図3.1 骨格曲線の比較(C 2 = 0.3,C 1 /C 2 = 0.333,α = 0.3,β = 0.05)
バイリニア :第2折点震度 C 2 と,降伏後の剛性増加率 β (初期剛性に対する比)で定める。
トリリニア :上に加えて,第1折点の比率 C 1 /C 2 と,第1折点後の剛性低減率 α を与える。
3.2 履歴則 骨格曲線にリニアを選択すると弾性応答となり,履歴則の欄は表示されない。履歴則は,移動硬化[3-1] ,原点指向,最大点指向,劣化型[3-2] ,スリップ,武田モデル[3-3] ,武田スリップ[3-4] ,およびノーマル+スリップ(並列)から選択する。同一の変位履歴を与えたときの違いを図3.2に示す。
移動硬化 原点指向 最大点指向 劣化型(Clough) スリップ 武田モデル 武田スリップ ノーマル+スリップ Ramberg–Osgood(Masing) 各図とも 横軸 δ ,縦軸 Q (破線は骨格曲線) 図3.2 履歴則の比較(Ramberg–Osgood 以外はトリリニア骨格,C 2 = 0.3,C 1 /C 2 = 0.333,α = 0.3,β = 0.05,η = 0.9,γ = 0.4,λ = 1,r = 0.5。Ramberg–Osgood は a = 1,n = 5)
移動硬化 :ノーマルトリリニア型(Masing型の移動硬化)である。弾性範囲の幅を保ったまま降伏点が移動する。弾完全塑性要素を並列につないだモデル[3-5] で表し,除荷は初期剛性で荷重が 2Q 1 下がるまで,続いて α K で荷重が合計 2Q 2 下がるまで進み,その後は β K の直線に沿う。ループが太く,履歴による吸収が大きい。
原点指向 :除荷後,原点を指向して反対側へ向かう。ループが細く,吸収が小さい。
最大点指向 :除荷後,反対側の既往最大点を指向する。
劣化型(Clough) :除荷は初期剛性で荷重 0 まで戻り,その後は反対側の既往最大点を指向する。最大点指向よりループが太い。
スリップ :原点付近に剛性の低い区間(スリップ域)を設ける。区間の広さをスリップ域係数 η で与える。
武田モデル :除荷剛性を既往最大変位に応じて低減する。低減の程度を γ で与え,式(3.6)〜式(3.8)による。ここで δ m は既往最大変位,K u は除荷剛性である。
武田スリップ :除荷は武田モデルと同じである。荷重 0 の点 δ 0 からは,最大点指向の勾配 K p を低減した勾配 K s で進み(式(3.9),式(3.10)),既往最大点を通る除荷勾配 K u の直線に達したら,その直線に沿って既往最大点へ向かう。低減の程度をスリップ剛性指数 λ で与え,λ = 0 で武田モデルと一致する。降伏前はスリップを生じない。
ノーマル+スリップ(並列) :移動硬化の要素とスリップ型の要素を並列につなぐ。同じ骨格曲線の耐力のうち,割合 r (スリップ耐力比)をスリップ型,1 − r を移動硬化の要素が受け持つ。スリップ型の要素は,既往最大変位から初期剛性で除荷した荷重 0 の点の間では力を持たず,それを超えると初期剛性で骨格曲線まで立ち上がる。露出柱脚のアンカーボルトの伸びや,引張ブレースの履歴を表すのに用いる。
(3.6)
(3.7)
(3.8)
(K u の下限) ここで,
Ku :除荷時の勾配(kN/cm)Kyc :降伏点と逆側の第1折点を結ぶ直線の勾配(kN/cm)Kmc :既往最大点と逆側の第1折点を結ぶ直線の勾配。K u の下限(kN/cm)δm :既往最大変位(cm)Qm :その変位における骨格曲線上の荷重(kN)γ :除荷剛性低減係数。大きいほど除荷の勾配が緩くなる(既定 0.4)
なお,武田モデルと武田スリップの内側ループは既往最大点を目標としており,内側ループでの除荷剛性の低減係数は 1 に固定している。
武田スリップの再載荷の勾配は,式(3.9),式(3.10)による。
(3.9)
(3.10)
ここで,
Ks :スリップ区間の勾配(kN/cm)Kp :荷重 0 の点から既往最大点へ向かう直線の勾配(kN/cm)δ0 :除荷で荷重が 0 となった点の変位(cm)λ :スリップ剛性指数。大きいほどスリップが顕著になる(既定 1)
画面の図は,選択した組合せの概形を示す。
3.3 Ramberg–Osgood 型 骨格曲線を式(3.11)の滑らかな曲線とし[3-6],[3-7] ,除荷・再載荷の曲線は骨格曲線を2倍に拡大した式(3.12)とする(Masing 則[3-8] )。内側のループが閉じて1つ前の反転点に達したときは,その反転点に至る前の曲線に戻る。最初の反転点しかないときは,反対側の骨格曲線上の点 (−δ r ,−Q r ) に達したら骨格曲線に戻る。この骨格では履歴則は選ばない。塑性率は δ y = Q y /K に対する比とする。
(3.11)
(3.12)
ここで,
Qy :基準耐力。基準震度 Cy を用いて Qy = Cy mg (kN)a :係数。Q = Qy のとき変位が弾性の (1 + a ) 倍となる(既定 1)n :指数。大きいほど完全弾塑性に近づく(既定 5)δr ,Qr :最後の反転点の変位(cm)と荷重(kN)
参考文献
[3-1] Prager, W.: A new method of analyzing stresses and strains in work-hardening plastic solids, Journal of Applied Mechanics, Vol. 23, pp. 493-496, 1956, https://doi.org/10.1115/1.4011389[3-2] Clough, R. W. and Johnston, S. B.: Effect of stiffness degradation on earthquake ductility requirements, Proceedings of the 2nd Japan Earthquake Engineering Symposium, pp. 227-232, 1966[3-3] Takeda, T., Sozen, M. A. and Nielsen, N. N.: Reinforced concrete response to simulated earthquakes, Journal of the Structural Division, ASCE, Vol. 96, No. ST12, pp. 2557-2573, 1970, https://doi.org/10.1061/JSDEAG.0002765[3-4] Kabeyasawa, T., Shiohara, H., Otani, S. and Aoyama, H.: Analysis of the full-scale seven-story reinforced concrete test structure, Journal of the Faculty of Engineering, The University of Tokyo, Vol. 37, No. 2, pp. 431-478, 1983[3-5] Iwan, W. D.: A distributed-element model for hysteresis and its steady-state dynamic response, Journal of Applied Mechanics, Vol. 33, No. 4, pp. 893-900, 1966, https://doi.org/10.1115/1.3625199[3-6] Ramberg, W. and Osgood, W. R.: Description of stress-strain curves by three parameters, NACA Technical Note, No. 902, 1943[3-7] Jennings, P. C.: Periodic response of a general yielding structure, Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, Vol. 90, No. EM2, pp. 131-166, 1964, https://doi.org/10.1061/JMCEA3.0000463[3-8] Masing, G.: Eigenspannungen und Verfestigung beim Messing, Proceedings of the 2nd International Congress of Applied Mechanics, pp. 332-335, 1926
4. 計算 4.1 時間積分 時間積分には Newmark-β 法のうち平均加速度法(β = 1/4,γ = 1/2)を用いる[4-1] 。線形系では,この方法は時間刻みの大きさによらず安定である。本アプリケーションが扱う弾塑性系では線形と同じ意味での無条件安定は保証されないが,各ステップで釣合いを満たせば離散エネルギーが有界にとどまることが示されており[4-2] ,エネルギー安定の意味での安定性と2次収束も示されている[4-3] 。実際に問題となるのは安定性よりも精度であり,折れ点や除荷点をステップの内側でまたぐと誤差が入る。
各ステップでは,まず等加速度を仮定した予測値(式(4.1))から出発する。時刻 t + Δt の速度と加速度を式(4.2),式(4.3)のように変位で表し,これを運動方程式に代入した残差(不釣合い力)を式(4.4)で求める。残差が十分小さくなるまで,式(4.5),式(4.6)により変位を修正する(Newton-Raphson 法)。反復は最大30回で打ち切る。
(4.1)
ここで,
:時刻 i における速度(cm/s) :時刻 i における加速度(cm/s²)
接線剛性 k t は,復元力を数値的に微分して求める。減衰の型を瞬間剛性比例としたときは,減衰係数も反復のたびに k t に応じて更新する。初期条件は静止状態( , )とし,初期加速度は とする。絶対加速度は により求める。
4.2 時間刻みの細分 時間刻みには読み込んだ波形のサンプリング間隔 Δt をそのまま使用するが,弾塑性のときは内部でこれを細分する。細分には2つの働きがある。
周期に対する刻みの確保 :Δt が固有周期 T の 1/20 を超えるときは,Δt ≦ T /20 となるよう 1 ステップを等分し,その間の地動加速度を直線で補間する。既定はこの自動細分である。分割しない・2分割・4分割・8分割も選択できる。
折れ点をまたいだステップの再分割 :ステップの前後で接線剛性が K の 1% を超えて変わったときは,折れ点や除荷点をステップの内側でまたいだとみなし,そのステップだけを解き直して 10 等分する。
最大応答とエネルギーは,出力を間引く前の細かいステップで評価する。CSV と時刻歴の図は読み込んだ波形と同じ刻みに戻すので,点数は入力と同じである(詳細設定で細分後のすべてのステップを出力することもできる)。応答スペクトルは周期ごとに細分の数が変わるが,出力は周期と応答値であり,点数は変わらない。
表4.1 細分による違い(6. の例題の入力,T = 0.05 s,トリリニア,移動硬化)
細分 1ステップの刻み (s) 最大変位 (cm) 最大加速度 (cm/s2 )
なし 0.02 0.096 331
2分割 0.01 0.101 336
4分割 0.005 0.101 336
8分割(自動) 0.0025 0.102 337
細分しないと最大変位を 6% ほど小さく評価する。2分割でほぼ収束しており,自動細分(この条件では8分割)は収束した値を与える。
(4.2)
(4.3)
ここで,
xi :時刻 i における変位(cm)Δt :時間刻み。サンプリング周波数の逆数(s)i :時間ステップの番号
(4.4)
ここで,
R :不釣合い力。0 に収束するまで繰返し計算する(kN) :地動加速度(cm/s²)
(4.5)
(4.6)
ここで,
k̂ :等価剛性。Newton-Raphson 法で変位を修正するときの勾配(kN/cm)kt :その時刻の接線剛性(kN/cm)
4.3 エネルギー エネルギーは式(4.7)〜式(4.11)により台形則で積算する。E D と E H は時刻 0 からの累積値,E S と E K はその瞬間の値である。
(4.7)
(4.8)
(4.9)
(4.10)
(4.11)
ここで,
EI :入力エネルギー。地震が系に与えた仕事(kN·cm)ED :減衰が吸収したエネルギー(kN·cm)EH :履歴が吸収したエネルギー。塑性変形により消費された量(kN·cm)ES :弾性ひずみとして蓄えられているエネルギー(kN·cm)E K :運動エネルギー。速度に対応する量(kN·cm)
結果の表には,入力エネルギーとその内訳のほか,エネルギー等価速度 V E = √(2E I /m ),累積塑性変形倍率 η = E H /(Q y δ y ),およびエネルギー収支の誤差 {E I − (E K + E S + E D + E H )}/E I を示す。誤差は数値積分の精度の目安になる。
4.4 計算の実行 計算は,「4. 計算」の「計算の種類」で時刻歴応答,応答スペクトル(5. 応答スペクトル)またはすべての波の一覧を選択し,「計算する」を押して行う。時刻歴応答は選択した波1つについて求め,すべての波の一覧は読み込んだすべての波について最大応答などを一覧にする。
参考文献
[4-1] Newmark, N. M.: A method of computation for structural dynamics, Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, Vol. 85, No. EM3, pp. 67-94, 1959, https://doi.org/10.1061/JMCEA3.0000098[4-2] Belytschko, T. and Schoeberle, D. F.: On the unconditional stability of an implicit algorithm for nonlinear structural dynamics, Journal of Applied Mechanics, Vol. 42, No. 4, pp. 865-869, 1975, https://doi.org/10.1115/1.3423721[4-3] Hughes, T. J. R.: Stability, convergence and growth and decay of energy of the average acceleration method in nonlinear structural dynamics, Computers & Structures, Vol. 6, No. 4-5, pp. 313-324, 1976, https://doi.org/10.1016/0045-7949(76)90007-9
5. 応答スペクトル 5.1 弾性と弾塑性の比較 「4. 計算」の「計算の種類」で応答スペクトルを選択すると,質量と復元力の設定(降伏震度など)を保ったまま剛性 K を変えて周期を振り,変位応答 S d (最大相対変位),速度応答 S v (最大相対速度),加速度応答 S a (最大絶対加速度),擬似速度 p S v = ω S d ,擬似加速度 p S a = ω 2 S d ,エネルギー E I (入力エネルギー),塑性率 μ または必要耐力 C 2 を周期の関数として描画する。変位応答からエネルギーまでは常に計算し,描画する量は結果の図の上で選択する。塑性率と必要耐力は,バイリニアまたはトリリニアのときに「4. 計算」の弾塑性の欄で選択したものだけを計算する。ここで ω = 2π /T は初期剛性による固有円振動数である。弾塑性では p S a は耐力で頭打ちにならないため,S a より大きくなる。耐力が周期によらず一定であるため,一定強度型の弾塑性応答スペクトルとなる[5-1] 。周期の範囲と刻みを指定する。刻みは,桁ごとに刻みを変更する3段階(粗い・標準・細かい)か,等間隔(0.01,0.02,0.05,0.1 s)から選択する。桁ごとに刻みを変更する場合は,1〜10 s の桁を例にとると,1〜2 s,2〜5 s,5〜10 s の区間の刻みを,粗いで 0.2,0.5,1 s,標準で 0.1,0.2,0.5 s,細かいで 0.1 s とし,他の桁ではこれを 10 倍または 1/10 倍する。標準では隣り合う周期の比が約 1.1 倍以内となる。目盛りは範囲によらず共通で,範囲の端が目盛りに乗らないときは端の値を加える。塑性率は式(5.1)による。
(5.1)
ここで,
μ :塑性率。第2折点変位に対する最大変位の比。バイリニアでは降伏変位 δ y ,Ramberg–Osgood 型では Q y /K に対する比とするδmax :応答の最大変位(cm)δ2 :第2折点の変位(cm)
0.05 0.1 0.2 0.5 1 2 3 0 5 10 15 20 25 弾性 弾塑性(C 2 = 0.3) T (s) δ max (cm)図5.1 弾性と弾塑性の変位応答 S d (El Centro 1940 NS,h = 5%,m = 1 kN·s2 /cm,トリリニア,移動硬化,瞬間剛性比例)
周期が短いほど弾塑性の変位は弾性を上回りやすく,周期が長い領域では両者が近づく。これは変位一定則としてよく知られた傾向である[5-1] 。
5.2 必要耐力スペクトル 骨格曲線がバイリニアまたはトリリニアのとき,「4. 計算」の弾塑性の欄で「必要耐力」にチェックを入れて計算すると,塑性率が目標値 μ となる第2折点震度 C 2 を周期ごとに求める(一定塑性率型[5-2] )。目標塑性率はカンマで区切って複数与えられ,それぞれを1本の線として描画する。C 1 /C 2 ,α ,β と履歴則は「3.」の設定のままとし,C 2 だけを変更する。探索は,弾性応答の最大せん断力に相当する震度の 1.05 倍から 1/200 までの範囲を対数間隔の12点で調べ,大きい方から見て最初に塑性率が目標以上となる区間を二分法で詰める。耐力と塑性率の関係は単調とは限らないため,目標の塑性率となる耐力が複数あるときは最も大きいものを採る。範囲内で目標に達しないときは値を描かない。
参考文献
[5-1] Veletsos, A. S. and Newmark, N. M.: Effect of inelastic behavior on the response of simple systems to earthquake motions, Proceedings of the 2nd World Conference on Earthquake Engineering, Vol. 2, pp. 895-912, 1960[5-2] Newmark, N. M. and Hall, W. J.: Earthquake Spectra and Design, Earthquake Engineering Research Institute, 1982
6. 例題 例題を示す。骨格曲線と履歴則のほかは初期値のままである。入力は El Centro 1940 NS(Δt = 0.02 s,2687点,最大加速度 341.7 cm/s2 )である。
表6.1 例題の条件(骨格曲線と履歴則を除き初期値)
項目 値 項目 値
周波数 50 Hz 骨格曲線 トリリニア
質量 m 1 kN·s2 /cm 第2折点震度 C 2 0.3
剛性 K 157.9 kN/cm 第1折点の比率 C 1 /C 2 0.333
弾性周期 T 0.500 s 第1折点後の低減率 α 0.3
減衰定数 h 0.05 降伏後の剛性増加率 β 0.05
減衰の型 瞬間剛性比例 スリップ域係数 η ,除荷剛性低減係数 γ 0.9,0.4
スリップ剛性指数 λ ,スリップ耐力比 r 1,0.5
この条件では,第1折点が δ 1 = 0.62 cm(Q 1 = 98.0 kN),第2折点が δ 2 = 4.76 cm(Q 2 = 294.2 kN)となる。
表6.2 履歴則による応答の違い
履歴則 最大変位 (cm) 塑性率 μ 最大加速度 (cm/s2 ) 入力エネルギー (kN·cm) 履歴吸収 (kN·cm) 弾性(リニア) 5.14 – 819 7325 – 移動硬化 5.93 1.24 303 9254 7197 原点指向 17.43 3.66 394 10878 3216 最大点指向 14.59 3.06 372 10297 3458 劣化型(Clough) 5.26 1.11 301 8343 7093 スリップ 10.22 2.15 349 10218 8341 武田モデル 8.61 1.81 325 9106 6996 武田スリップ 9.84 2.07 334 8676 6998 ノーマル+スリップ 6.91 1.45 311 8358 6851
弾性では最大変位 5.14 cm に対して復元力が 812 kN に達し,第2折点の 294 kN を大きく超える。弾塑性とすると,履歴によるエネルギー吸収が生じるため最大加速度は 301 〜 394 cm/s2 に下がる。一方で最大変位は履歴則により 5.3〜17.4 cm と大きな幅があり,ループの太い劣化型や移動硬化で小さく,細い原点指向で大きい。瞬間剛性比例では降伏後に減衰力が小さくなるため,初期剛性比例に比べて変形が大きめに出る(表2.1)。
-8 -4 0 4 8 -800 -400 0 400 800 弾性 δ (cm) Q (kN) -8 -4 0 4 8 -800 -400 0 400 800 移動硬化 δ (cm) -8 -4 0 4 8 -800 -400 0 400 800 武田モデル δ (cm) 図6.1 例題の履歴ループ(せん断力 Q – 相対変位 δ )
0 10 20 30 40 50 0 2500 5000 7500 10000 入力エネルギー 履歴吸収 減衰 t (s) E (kN·cm)図6.2 例題のエネルギーの時刻歴(移動硬化)
入力エネルギーは地震動の強い区間(約2〜12秒)で急増し,その後はほぼ一定となる。最終的な入力エネルギー 9254 kN·cm のうち,履歴による吸収が 7197 kN·cm(78%),減衰による吸収が 2007 kN·cm(22%)である。
数値を再現するには,本アプリケーションに El Centro 1940 NS の加速度(1列,cm/s2 )を読み込み,波の一覧の周波数に 50 を入力して「計算する」を押せばよい。表6.2の各行は,履歴則を切り替えて計算したものである。
7. 結果の表示と出力
図 :せん断力–変位関係(履歴ループ),エネルギーの時刻歴,相対変位および絶対加速度の時刻歴,応答スペクトル(必要耐力を含む)を描画する。各図は PNG または SVG で保存でき,文字の大きさと縦横比は画面上部で変更する。
表 :選択した波の最大応答とエネルギーの内訳,および「すべての波の一覧」による全波の一覧を示す。全波の一覧には,入力波の PGA,PGV,長さと,最大変位,最大加速度,塑性率,残留変形,入力エネルギー,履歴吸収エネルギー,累積塑性変形倍率,エネルギー等価速度を並べる。
CSV :時刻歴,すべての波の一覧,応答スペクトル,必要耐力スペクトルをそれぞれ出力する。
設定 :画面上部から,入力条件を .swy 形式で保存および読込できる。読み込んだ波と波の一覧の値(名前・周波数・倍率・単位)は設定ファイルには含めず,ブラウザ内に保存する。Web 上で開いた Chrome または Edge では,「上書き保存」により同一のファイルに書き戻すことができる。その他の環境では,保存のたびにファイルをダウンロードする。
8. 前提条件と適用範囲
対象は1自由度系であり,基礎固定・水平1方向の加速度入力とする。
耐力は震度で与えるため,質量を変更すると耐力も比例して変わる。
エネルギーは,入力エネルギー,減衰によるもの,履歴によるもの,および弾性ひずみエネルギーに分けて示す。
応答スペクトルは,各周期で同じ耐力(震度)を用いた一定強度型である。一定塑性率型は「必要耐力」で求める。
弾塑性の計算では,時間刻みを固有周期の 1/20 以下となるよう内部で細分する(4. 計算)。細分した刻みの間の地動加速度は直線補間で与えるため,入力の高振動数成分は元の波形のサンプリング周波数で決まる。
用語索引
本文に出てくる主な用語をまとめた。英数字で始まる語をABC順に,続けて日本語の語を五十音順に並べている。日本語の語には対応する英語を括弧で添えた。説明の末尾の括弧は,その用語を扱っている章である。
Masing 則(Masing rule) 除荷・再載荷の曲線を,骨格曲線を2倍に拡大した形とする規則。(3. 復元力特性 ) Newmark-β 法(Newmark-β method) 運動方程式を時間方向に解く方法。本アプリケーションは平均加速度法(β = 1/4)を用いる。(4. 計算 ) Newton-Raphson 法(Newton-Raphson method) 不釣合い力が 0 になるまで解を繰返し修正する方法。(4. 計算 ) PGA・PGV(peak ground acceleration / velocity) 入力波の最大加速度と最大速度。波の一覧に示す。(1. データの読込 ) Ramberg–Osgood 型(Ramberg–Osgood model) 荷重と変位の関係を滑らかな曲線で表す骨格曲線。履歴は Masing 則による。(3. 復元力特性 ) 一定強度型スペクトル(constant-strength spectrum) 耐力を周期によらず一定として描いた弾塑性応答スペクトル。(5. 応答スペクトル ) 移動硬化(kinematic hardening) 弾性範囲の幅を保ったまま降伏点が移動する履歴則。ノーマル型(ノーマルバイリニア・ノーマルトリリニア)とも呼ぶ。ループが太い。(3. 復元力特性 ) エネルギーの釣合い(energy balance) 地震が与えたエネルギーが,減衰・履歴・弾性ひずみ・運動エネルギーに分配されること。(4. 計算 ) 擬似速度・擬似加速度(pseudo-velocity / pseudo-acceleration) 変位応答 S d に固有円振動数 ω または ω 2 を乗じた量。記号は p S v ,p S a 。(5. 応答スペクトル ) 減衰定数(damping ratio) 粘性減衰の強さを臨界減衰に対する比で表したもの。記号は h 。設計では鋼構造で 0.02,鉄筋コンクリート造で 0.03 が慣用値。(2. 振動系 ) 原点指向型(origin-oriented hysteresis) 除荷後に原点へ向かう履歴則。ループが細く,吸収が小さい。(3. 復元力特性 ) 骨格曲線(skeleton curve) 繰返しを受けないときの荷重と変形の関係。リニア・バイリニア・トリリニア・Ramberg–Osgood 型から選択する。(3. 復元力特性 ) 最大点指向型(peak-oriented hysteresis) 除荷後に反対側の既往最大点へ向かう履歴則。(3. 復元力特性 ) 瞬間剛性比例減衰(tangent-stiffness proportional damping) 減衰係数をその時刻の接線剛性に比例させる考え方。降伏すると減衰力が小さくなる。(2. 振動系 ) 初期剛性比例減衰(initial-stiffness proportional damping) 減衰係数を初期剛性に比例させる考え方。降伏後も減衰係数が変わらない。(2. 振動系 ) 震度(base shear coefficient) 耐力を重力加速度に対する比で表したもの。C = 0.3 なら質量の 0.3 倍の力で降伏する。(3. 復元力特性 ) スリップ型(slip-type hysteresis) 原点付近に剛性の低い区間を設ける履歴則。ずれや抜け出しを表す。(3. 復元力特性 ) 塑性率(ductility factor) 最大変位を降伏変位で割った値。1 を超えると降伏している。(5. 応答スペクトル ) 武田スリップ(Takeda-slip model) 武田モデルの再載荷にスリップ区間を加えた履歴則。スリップの程度を λ で与える。(3. 復元力特性 ) 武田モデル(Takeda model) 除荷剛性を既往最大変位に応じて下げる履歴則。RC 部材に広く用いられる。(3. 復元力特性 ) ノーマル+スリップ(normal-slip parallel model) 移動硬化の要素とスリップ型の要素を並列につないだ履歴則。露出柱脚のアンカーボルトの伸びなどを表す。(3. 復元力特性 ) 必要耐力(required strength, constant-ductility spectrum) 塑性率が目標値となる耐力(第2折点震度 C 2 )を周期ごとに求めたもの。一定塑性率型のスペクトル。(5. 応答スペクトル ) 履歴則(hysteresis rule) 除荷・再載荷の経路の決め方。ループの太さが履歴によるエネルギー吸収量を決定する。(3. 復元力特性 ) 劣化型(Clough model) 除荷は初期剛性で荷重 0 まで戻り,その後は反対側の既往最大点を指向する履歴則。(3. 復元力特性 )